シナリオプランニングとは?中小企業が経営戦略に変える9ステップ
先生。
中期的な計画を立てたいのですが、
最近、次から次へと経営環境が変化するので、
どの方向へ進めばよいか分かりません。
最近は経営環境の変化が速すぎて、経営戦略を立てる難易度が高まってきています。
そんなときに使われるのが、「シナリオプランニング」というフレームワークです。
シナリオプランニング、初めて聞きました。
なんで今まで知らなかったのでしょうか?
調査に時間がかかり、大企業くらいしか取り入れることが難しかったからです。
現在では、AIを使って大幅に時間を短縮することが可能です。
経営資源の限られた中小企業こそ、積極的に取り入れることをオススメします。
シナリオプランニングとは?中小企業が経営戦略に変える9ステップ
「今の事業は順調だけれど、このまま5年後も通用するのだろうか」
そう感じたときに役立つのが、シナリオプランニングです。
シナリオプランニングとは、起こり得る複数の未来を描き、それぞれの場合にどのような経営判断をするかを考える型です。
重要なのは、未来を正しく予測するのではなく、複数の未来を考えたうえで、
- 今から始めること
- まだ始めないこと
- 何が起きたら方針を変えるのか
を決めることに意味があります。
この記事では、シナリオプランニングについて説明するだけでなく、中小企業が経営戦略を定めて、社員の実行に繋げるまでを具体的に解説します。

シナリオプランイングを戦略に繋げるステップ
シナリオプランニングとは?不確実な経済環境で戦略を策定する手法
シナリオプランニングを簡単に言えば、未来を何通りか考えて、考えている経営戦略がそれぞれの未来でも通用するかを確認する方法です。
Shell社は50年以上にわたりシナリオ思考を経営判断に活用していることで紹介されることが多いですが、自社のシナリオについて「予測や期待ではない」と明確に説明してるように、シナリオプランニングは未来を確実に予想するものではありません。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/10/3/10_254/_pdf/-char/en
「シェル流」シナリオプランニングの実践手法 角和 昌浩 平成26年3月20日
不完全で不確実な情報から、複数の「あり得る世界」を考え、戦略を決めることがシナリオプランニングの役割です。
これまでの未来予測との違い
例えば、過去5年間で売上が毎年5%ずつ伸びていたとします。
そこから、
「このまま成長すれば、3年後の売上はこのくらいになる」
と考えるのがこれまでの一般的な予測、いわゆるフォアキャスティングです。
もちろん、こうした予測も経営には必要です。
しかし、コロナなどの災害や戦争といった、世界的な経営環境の変化によって
- 物流が変わり、資材価格が上昇する
- 人材採用がさらに難しくなる
- 金利が上昇する
- 法規制が変わる
- 顧客の購買行動が変わる
といった変化が起きれば、過去の延長線だけでは考えにくくなります。
そこで、
「前提そのものが変わったらどうなるか」
を考えるのがシナリオプランニングです。
なお、シナリオプランニングには複数の方法があります。
さまざまな流派や手法が存在し、その効果に関する厳密な実証研究はまだ限定的であることが指摘されています。
この記事では、その中でも中小企業が経営戦略を考える際に使いやすい、重要な2つの不確実性から4つの未来を考える方法を中心に説明します。
シナリオプランニングは中小企業にも必要か?

シナリオプランニングは、中小企業にこそ必要な手法と言っても過言ではありません。
大企業が専門部署を置いて行うものというイメージがありますが、経営資源が限られている会社ほど、一度の判断ミスが経営に与える影響は大きくなります。
むしろ、「どこに資源を集中させるか」を決めなければならない中小企業の方が、複数の未来を並べて考える意味は大きいといえます。
とはいえ、大がかりな調査や分厚いレポートを作成する必要はなく、経営者と幹部数名が、半日から1日、「自社への影響が大きく、先が読めない変化」について議論する。
それだけでも、中小企業の経営判断の質は変わります。
「この事業をこのまま続けて大丈夫か?」と感じたときが検討のタイミング
シナリオプランニングを検討すべきタイミングは、業績が悪化したときではなく、現在の事業が順調なときです。
経営者であれば、次のような疑問を感じることがあるのではないでしょうか。
「うちの会社、今は儲かっているけどこの事業をこのまま続けて大丈夫?」
「主力事業が5年後も通用するかどうやって考えればいい?」
「AIで業界が変わりそうだが、今何をすべき?」
「新規事業を始めるべきか既存事業を伸ばすべきか?」
こうした問いが浮かぶ背景には、経営環境そのものの変化があります。
現在の経営環境を表す言葉として、「VUCA(ブーカ)」があります。
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、簡単に言えば、経営の前提条件が変わりやすく、先を読み切ることが難しい状態です。
前提が変わりやすい環境では、「今の延長線で3年後を考える」こと自体が難しくなります。
そこで重要なのが、検討に着手するタイミングです。
業績が悪化してから将来を考え始めると、資金にも人材にも時間にも余裕がなく、選べる手が限られます。
一方、現在の事業が利益を生んでいる時期であれば、試す余裕も、撤退する余裕もあります。
「この事業をこのまま続けて大丈夫か?」という違和感は、まだ余裕があるうちに湧いてくるサインです。
その時点で検討を始められるかどうかが、5年後の選択肢の幅を決めます。
2026年版中小企業白書が示す「現状維持は最大のリスク」
2026年版中小企業白書は、現在を「経営環境の転換期」と位置づけ、この局面において現状維持は最大のリスクであると明記しています。
白書では、短期的な損益を追うのではなく、長期的な視点で事業構造・組織構造を再構築していく「戦略」を持った経営へ転換し、「稼ぐ力」を高めて「強い中小企業」へ成長することが重要だとしています。
2026年版中小企業白書
https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260424005/20260424005.html
その前提として挙げられているのが、
・約30年ぶりの水準が続く賃上げと、最低賃金の引上げ
・人口減少による労働供給制約社会の到来
・デフレ・ゼロ金利から、インフレ・金利のある時代への移行
などといった構造的な変化です。
いずれも、一時的な景気変動ではなく、経営の前提条件そのものの変化です。
過去5年の実績を延長して計画を立てても、その前提が動いている以上、計画は現実から離れていきます。
そのような状況では、社長も従業員も、どのような打ち手を打って良いかわからず、思考停止になりがちです。
一方で、変化に対応するために、とにかくあらゆることに挑戦してみる。
ということをするかもしれません。
どちらも、経営資源が限られている中小企業が取るべき打ち手とは言えません。
そのような状況でこそ活用すべき方法の一つが、シナリオプランニングです。
複数の未来を並べたうえで、どの未来でも必要な打ち手は今から始め、未来によって有効性が変わる打ち手は条件付きで保留する。
この切り分けができれば、先が読めない環境でも経営判断を前に進められます。
なお、社内に社長以外に経営人材がいない場合は「自社への影響が大きく、先が読めない変化」について議論することは難しいでしょう。
そのような場合は外部の専門家の力を借りることも1つのアイデアです。
シナリオプランニングで考える「4つの未来」
2軸×4象限型のシナリオプランニングでは、将来に影響する要因をすべて未来シナリオにして、そのすべての戦略を考えるのではなく、その中から
「自社への影響が大きいのに、将来どうなるか分からないこと」
を見つけることがポイントです。
例えば、
「人口が減少していく」
こと自体の確度が高いのであれば、それは重要な前提条件として計画へ織り込みます。
一方、
「AIが自社業界の仕事をどこまで代替するか」
については、自社への影響が大きくても、5年後の状況を正確に読むことは難しいでしょう。
このような要因を重要な不確実性として扱います。
2つの不確実性から4つの未来を仮定する
重要な不確実性を2つ選び、それぞれを縦軸と横軸にします。
例えば、
縦軸:AIの業務浸透度「限定的 ↔ 深く浸透」
横軸:金利水準「低い ↔ 高い」
とすると、4つの未来ができます。
それぞれの未来で、
・顧客は何を求めるのか
・市場規模はどうなるのか
・競争相手は誰になるのか
・利益の出し方はどう変わるのか
・必要な人材はどう変わるのか
・現在の事業はどこまで通用するのか
まで考え、その影響の精度を高めることが、その後の戦略選択で重要になってきます。
4つの未来は、経営戦略を考えるための「仮説環境」と捉えると分かりやすいでしょう。
シナリオプランニングのやり方|経営戦略につなげる9ステップ

ここからは、中小企業がシナリオプランニングを経営へ活用する手順を9ステップで説明します。
大事なのは、未来を考え、戦略を選び、経営計画に落としたうえで、実行しながら修正するところまでを一連の流れとして考えることが重要です。
STEP1|何を判断するのかを決める
最初に決めるのは、未来ではなく経営上の目的です。
例えば、
「現在の主力事業へ、今後も設備投資を続けるべきか」
「3~5年後を考えたとき、新規事業へ経営資源を振り向けるべきか」
といった具体的な問いを設定します。
同時に、
・何年先を見るのか
・どの事業を対象にするのか
・何を決定するために行うのか
も明確にします。
最後にどの経営判断をしたいのかを先に決めることが重要です。
STEP2|STEEP・PESTELで外部環境を調べる
次に、自社ではコントロールできない外部環境の変化を洗い出します。
その際に使えるのが、STEEPやPESTELです。
例えばPESTELでは、
Politics:政治
Economy:経済
Society:社会
Technology:技術
Environment:環境
Legal:法律・規制
といった複数の視点から考えます。
複数の視点から経営環境の変化を予測することで、経営者や幹部が普段見落としている変化を発見することができます。
STEP3|影響度×不確実性で整理する
洗い出した変化を、
自社への影響度 × 将来の不確実性
で整理します。
例えば「AI」を取り上げても、
「AIが発展するか」
という問いでは範囲が広すぎます。
「自社の主要業務のうち、どこまでAIに代替・補完されるか」
と具体化した方が経営判断につながります。
影響が小さいものまで細かく分析すると、議論が拡散します。
特に注目するのは、影響度が高く、不確実性も高い領域です。
STEP4|重要な2つの不確実性を選ぶ
STEP3で見つけた要因から、シナリオの軸となる2つを選びます。
選ぶ基準は、
・自社への影響が大きい
・将来を簡単には予測できない
・2つの要因ができるだけ異なる意味を持つ
ことです。
例えば、
「人口減少」と「人手不足」
では相互に関連性が強いため、似た未来しか描けない可能性があります。
異なる角度から未来を動かす2つの要因を選ぶことで、シナリオの幅が広がります。
STEP5|2軸から4つの未来を描く
2つの軸を交差させ、4つの未来を描きます。
このとき、単に「景気が良くなる」「景気が悪くなる」で終わらせないことがポイントです。
それぞれについて、
顧客の認知・行動はどう変わるか?
→市場はどう変化するか?
→競争相手はどう変わるのか?
→業界の利益構造はどう変わるか?
→自社はどのような戦略を採用すべきか?
と順番に考えていくと具体化しやすくなります。
経営者だけで作るよりも、営業、製造、管理部門など異なる立場の幹部が参加した方が、経営者だけの思い込みに縛られず、複数の視点から考えることができます。
STEP6|それぞれの未来で現在の戦略を検討する
4つの未来ができたら、現在検討している戦略を当てはめます。
英国Government Office for Scienceでは、この考え方をPolicy Stress-testing(ストレステスト)として紹介しており、複数の未来条件に対して戦略や施策がどこまで耐えられるかを検討します。
企業経営であれば、
「この設備投資は4つの未来すべてで回収できそうか」
「採用を増やす戦略はAIが急速に普及した場合でも有効か」
「現在の高付加価値戦略はどのシナリオで弱くなるか」
などを確認します。
ここから、シナリオプランニングが「未来を考える作業」から「経営戦略を選ぶ作業」へ変わります。
STEP7|変化を察知する指標を決める
未来を4つに分けても、実際にどのシナリオへ進むかは分かりません。
そこで必要になるのが、
「未来が変わり始めたことを、何で判断するのか」
という指標です。
これをEWS(Early Warning Signals/早期警戒指標)として設定します。
例えばAIの浸透を見るのであれば、
・業界内でのAIサービス導入状況
・顧客から求められる業務内容の変化
・自社業務のAI代替可能割合
・競合の商品・価格体系の変化
などを定期的に確認します。
EWSは、洪水警報を判断する「雨量基準」と同じような、経営判断を変えるタイミングを察知するための基準です。
STEP8|中期経営計画と実行へつなぐ
ここが、中小企業でシナリオプランニングを実際の経営に使ううえで重要な工程です。
未来を考えたら、それを3年間の経営戦略と財務目標へ落とします。
さらに、戦略をBSC(バランスト・スコアカード)などを使って、「財務」「顧客」「内部プロセス」「学習と成長」といった視点から整理します。
そして、中期戦略の中から「今年、特に何を進めるのか」を1年間の全社OKRへ落とします。
OKRとは、Googleなどが採用している目標管理マネジメントのことを言います。
つまり、
5年後の未来
↓
3年間の財務・経営戦略
↓
BSC
↓
1年間の全社OKR
↓
部門・社員の行動
という流れです。
未来シナリオを分析するだけでは、会社の利益もキャッシュも社員の行動も変わりません。
経営計画と日々の行動までつないで初めて、未来分析が経営に使える状態になります。
STEP9|OKRをレビューし戦略を修正する
計画へ落とした後も、シナリオプランニングは終わりではありません。
外部環境が変化する以上、実行しながら計画の前提を見直します。
例えば、レビューを次の3段階に分けます。
週次レビュー
- 個人・部門目標の進捗
- 障害となっていること
- 次週の優先事項
週次では、未来を議論し直すよりも、まず行動を前へ進めます。
月次レビュー
- 全社目標の進捗
- 未達になっている原因と課題解決方針
- 翌月の重点行動
月次では、「計画どおり進んでいるか」と「計画の前提が変わっていないか」の両方を確認します。
四半期レビュー
- OKRそのものは妥当か
- どのシナリオへ近づいているか
- 人・資金・時間の配分を変えるべきか
四半期では、場合によっては目標そのものを修正します。
計画を守ることではなく、環境の変化を見ながら目的達成の確率を高めることがレビューの目的です。
これまで、中期経営計画は5年以上とするのが普通でした。
しかし、VUCAの時代において、戦略はすぐに変わる必要に迫られます。
ある程度、長期のシナリオを考慮に入れたうえで、戦略は3年程度設定することによって、戦略設定にかける時間を短縮し、なるべく細かいサイクルで戦略を見直すことが、これからの時代は重要であると考えます。
具体例|「防災意識×デジタル化の速度」で4つの未来を考えてみる
ここでは、先日行った中小企業を例にして説明します。
対象は従業員10名規模の土木工事業。
一部の外構の補強に独自の地域独占技術があり、かつて下請け100%だったのを、元請け100%を目指しています。
この会社の工法は、他の工法に比べて、短納期・安価という強みがあり、
「その工法で補強を行えば、地震や大雨のときの安全性が大幅に高まる。」
という訴求で、個人宅へのチラシ配布で売り上げを伸ばしてきました。
外構工事業を左右する不確実性として、AIで調査した結果、選択する不確実性を
減災・防災意識× デジタル化
と選びました。

シナリオプランニング4つの未来を仮説する
未来1|防災意識が高まる × デジタル化が速い
名称:データ型予防補強市場
AIや3D計測を使って外構の状態を確認し、崩落前に補強する考え方が普及します。
結果、個人だけでなく、文化的価値を重視する寺社等からの相談も増えることが期待されます。
AIで調査したところ、社長も知らない診断ツールの存在が明らかになりました。
この診断ツールを使えば、危険度を診断したうえで提案する。
という新たなビジネスモデルを確立することができます。
会社への影響
・診断から補強工事まで一貫して提案できる
・安全性を写真や数値で説明しやすくなる
・寺社や文化的価値の高い市場を広げられる
・デジタル対応が遅れると、営業力の高い競合に先行される
未来2|防災意識が高まる× デジタル化が遅い
名称:実績・職人信頼型市場
外構補強の需要は高まるものの、AIや3D計測は普及せず、施工実績、口コミ、職人の説明が選定基準になります。
地域で早く取り組んできたこの会社にとっては理想のシナリオです。
会社への影響
・現在の独自工法と施工実績を生かしやすい
・施工前後の写真や顧客の評価が受注を左右する
・〇〇地区での知名度が高まれば、安定的に受注できる
・特定の施工管理者への依存が拡大の制約になる
未来3|防災意識が低い × デジタル化が速い
名称:診断先行・工法選別市場
AIや3D計測による診断は普及しますが、顧客の選択は診断を使った営業力に左右される可能性が高くなります。
会社への影響
・診断件数が増えても、補強工事の受注につながらない場合がある
・他の工法との比較説明が重要になる
・狭い場所で施工できることや工期の短さが強みになる
・診断会社や外構元請け会社との連携が受注が左右する
未来4|防災意識が低い × デジタル化が遅い
名称:先送り・価格優先市場
防災への関心が低く、診断技術も普及しないため、危険が目に見えるまで工事が先送りされます。
危険が起こった場合、営業力や、工事会社の対応能力が優先されます。
資源の限られる中小企業に関しては、勝負し難い環境です。
会社への影響
・防災補強工事の問い合わせが増えにくい
・長期・高額工事や簡易補修が選ばれやすい
・営業力・即応力で選ばれる。
・下請け工事から元請け工事への進捗に影響する。
速く・小さく試めす。
中小企業にとっては、起こりうる未来を推測し、早く・小さく試す経営が重要です。
このように2軸で4つの未来を比較すると、
「デジタル化が進むかどうか?」
「水害や地震等の増加で防災意識が高まるか?」
という議論から、
「どの未来になっても必要な準備は何か」
という経営判断へ議論を変えられます。
4つの未来から「今からやること」を決める
シナリオプランニングで最も重要なのは、ここからです。
4つの未来を作ったら、施策を次の3つに分けます。
今からやること|どの未来でも必要な施策
4つの未来を比較すると、どのシナリオでも有効な施策が見つかります。
これをロバスト施策と呼びます。
例えば今回の具体例なら、
①工法比較の見える化
当社独自工法と他社の工法を、価格、安全性、景観、工期、施工可能な広さで比較します。
②施工管理者3名体制の構築
施工手順と品質基準を標準化し、特定の1名に依存しない体制をつくります。
③小さく始めるデジタル対応
施工前後の写真、外構の状態、工期、費用、補強内容をデータとして蓄積します。
3D計測の導入を調査し、投資額次第では積極的に導入する。
といった施策は、複数の未来で有効になる可能性があります。
つまり、
未来が分からなくても、今から始められることはあります。
まだやらないこと|条件が整ったら実行する施策
一方、未来によって有効性が大きく変わる施策もあります。
例えば、
・大規模な診断システム投資
・新規事業への本格参入
・大幅な人員増加
などです。
こうした施策は「やる・やらない」を今すぐ決めるのではなく、
一定の条件になったら実行する選択肢
として持っておきます。
これが条件付きオプションです。
いつ動くか|変化のサインを決める
条件付きオプションとセットになるのがEWSです。
例えば、
「競合3社以上がを診断を使った新サービスを開始した」
「防災意識に対して有意な変動が見られた」
といった具体的な変化を、経営会議で確認する指標にします。
すると、
「そのうち診断の導入を考えよう」
ではなく、
「この条件になったら投資判断をしよう」
と事前に決められます。
これがシナリオプランニングを経営判断へ変える重要なポイントです。
今回は先行者利益を得るという経営判断で、診断を積極的に導入していく戦略となりました。
シナリオプランニングで陥りやすい4つの失敗と解消法
シナリオプランニングは、4象限を作ればうまくいくわけではありません。
特に注意したいのは次の4つです。
1.自分が望む未来を描いてしまう
経営者とAIだけで未来を考えてしまうと、
「この市場は今後も成長してほしい」
「自社の商品はなくならないはずだ」
という経営者の願望が入ると、シナリオの幅が狭くなります。
AIは、利用者に忖度するので、しっかりとそれを防がないと、経営者の願望に沿った未来を描きがちです。
しかし本来は、起きてほしい未来ではなく、起こると困るが十分あり得る未来を考える必要があります。
今回のシナリオですと、未来3が来た時に何も対策をしていないと困る。
という判断から、早期に対応する方針が決まりました。
このように、第3者的な視点がはいると、このような失敗は防ぐことができます。
2.「うちの業界はこうだ」という常識を疑わない
過去の成功体験が強い会社ほど、業界の常識を前提にしやすくなります。
しかし、技術革新や異業種参入によって、その前提自体が変わることがあります。
これは、AIを正しく活用することで、解消することができます。
AIをうまく使って、基本的なトレンドと不確実性を整理することで、経営判断にありがちな過信や視野の狭さを補うことができます。
3.短期すぎる未来だけを考える
半年後や1年後だけでは、現在の延長線から離れた未来を考えにくくなります。
一方で20年後では、中小企業の日常的な経営判断には遠すぎる場合があります。
事業内容によって異なりますが、
5年程度先を一つの目安にしながら、経営戦略を掲げ、短期目標に落としていく。
という使い分けが現実的です。
4.4つのシナリオを作って満足する
最も避けたい失敗です。
立派な4象限やレポートが完成しても、
「では来月から何をするのか」
が決まっていなければ経営は変わりません。
英国Government Office for ScienceのFutures Toolkitでも、シナリオの作成だけでなく、その後に戦略を複数シナリオへ当てはめて検証し、必要な修正や行動につなげるプロセスが示されています。
シナリオ作成はゴールではなく、経営判断のスタートです。
5年後の未来を、社員の「今からやること」までつなげる

5年後を考える目的
シナリオプランニングについて、私が特に重要だと考えているのが、
未来の話と、社員の今日の仕事を切り離さないこと
です。
経営者が5年後について考えても、その内容が経営会議の資料だけに残っていては、現場は今までと同じ行動を続けます。
そこで、
5年後の4つの未来
↓
3年間の経営戦略・財務目標
↓
BSC
↓
1年間の全社OKR
↓
部門・社員の行動
↓
週次・月次・四半期レビュー
まで一本につなぎます。
私たちが経営計画の策定を支援するときも、財務目標だけを作るのではなく、外部環境から中期財務目標、BSC、全社OKRまでをつなげることを重視しています。
具体例で挙げた会社は、5年後を考えた結果、
「防災意識は低く、デジタル活用が進んでも、独自工法で選ばれる会社になる」
という方向性を決めたとします。
3年間では、ロバスト戦略を実行しながら、診断を活用してBtoBに打って出る。
という戦略になりました。
さらに今年のOKRを、
Objective:診断を活用しながら、顧客に提供する価値を一段高める
と設定し、
その達成度を測るKey Resultsを置けば、未来の議論が社員の行動へ近づきます。
そして四半期ごとに、
「想定していた未来へ本当に近づいているのか」
を確認します。
必要なら目標や資源配分を変えます。
つまり、
未来の変化を見ながら、自分たちの行動を変えられる会社をつくる。
そこまで設計することが重要です。
まとめ|経済環境が変化しても動ける会社をつくる
シナリオプランニングの価値は、5年後を正確に予想して経営戦略を立てるのではなく、複数の未来を考えることで、
「今から何を始めるか」
「何をやらないか」
「何が起きたら方針を変えるか」
を決めることにあります。
将来が不透明だからといって、何も動けないと思考停止せず、
1.目的・目標の定義の設定
2.外部環境を調べる
3.影響が大きく不確実な変化を見つける
4.影響の大きな2つの不確実性を決める
5.4つの未来の影響を精査する
6.今やること・まだやらないこと・いつ動くかを決める
7.3年間の経営戦略をBSCで描く
8.BSCから1年間の目標へつなぐ
9.社員の行動へ落とす
という流れを持つことで、不確実な環境でも経営判断を前へ進めやすくなります。
中小企業で、このように戦略をしっかり考えて経営している企業は多くありません。
未来が想定と違っても、変化に気づき、戦略を修正し、社員が次の行動へ移れる会社になることが、競争力を上げることに繋がります。
「この事業をこのまま続けて大丈夫だろうか」と感じたときは、未来を一つに決めようとするのではなく、まず複数の未来を並べてみてください。
そこから、今からやるべきことが見えてきます。
5年後の未来を考えるだけで終わらせず、社員の「今やること」までつなげませんか?
シナリオプランニングで4つの未来を描いても、それだけでは会社は変わりません。
重要なのは、
5年後の未来
↓
3年間の経営戦略・財務目標
↓
BSC
↓
1年間の全社OKR
↓
部門・社員の行動
まで一本につなげることです。
Small-OKRの経営計画策定支援では、AIを活用して外部環境や業界の変化を整理し、シナリオを検討したうえで、経営戦略・財務目標・BSC・OKRまで経営者しながら伴走して落とし込みます。
「今の事業は順調だが、このまま5年後も通用するのか」
「新規事業へ進むべきか、既存事業をさらに伸ばすべきか」
「AIや人手不足などの変化を、自社の経営戦略にどう反映すればよいのか」
このような課題を感じている方は、一度サービス内容をご覧ください。

FAQ
Q1.シナリオプランニングとは、簡単に言うと何ですか?
シナリオプランニングとは、複数の未来を想定して経営戦略を考える方法です。
「5年後はこうなる」と決めつけるのではなく、起こり得る複数の環境を考えます。
そのうえで、
「今からやること」
「まだやらないこと」
「何が起きたら方針を変えるのか」
を決めます。
未来を当てるのではなく、複数の未来に対応できる準備をすることが目的です。
Q2.シナリオプランニングと通常の未来予測は何が違いますか?
通常の未来予測が「最も起こりそうな未来」を考えるのに対し、シナリオプランニングでは複数の未来を並べて考えます。
例えば、過去の売上推移から3年後の売上を予測する方法は、現在の傾向を将来へ延長するフォアキャスティングです。
一方、シナリオプランニングでは、
「AIが急速に普及したらどうなるか」
「人件費がさらにが大きく上昇したらどうなるか」
など、現在の前提そのものが変わった場合も考えます。
両者はどちらか一方を選ぶものではありません。通常の予測とシナリオプランニングを組み合わせて使うこともできます。
Q3.シナリオプランニングでは何年先を考えればよいですか?
中小企業では、まず5年程度先を一つの目安にすると考えやすいでしょう。
1年程度では現在の延長線から離れた未来を考えにくく、逆に20年先では日常の経営判断と結びつきにくくなる場合があります。
ただし、適切な期間は事業によって異なります。
例えば、大型設備投資や工場建設など回収期間が長い意思決定であれば、5年以上を見る必要があります。
重要なのは「何年先を見るか」よりも、今の経営判断に必要な時間軸を設定することです。
Q4.シナリオプランニングの2軸はどうやって選びますか?
「自社への影響が大きく、将来どうなるか分からない要因」を2つ選ぶことが基本です。
例えば、
・AIの業務浸透度
・金利水準
・顧客ニーズの変化
・規制強化の程度
・人材確保の難易度
などが候補になります。
その中から、
1.自社への影響が大きい
2.不確実性が高い
3.2つの要因ができるだけ異なる意味を持つ
という基準で絞ります。
「人口減少」と「人手不足」のように強く関連する要因同士を選ぶと、似たシナリオになりやすいため注意が必要です。
Q5.中小企業でもシナリオプランニングを行う必要がありますか?
特に将来の事業環境に大きな変化が予想される中小企業では、検討する価値があります。
中小企業は大企業より経営資源が限られているため、大型投資や新規事業、人材採用などへの資源配分を間違えた場合の影響が大きくなることがあります。
すべての会社が大規模なプロジェクトとして行う必要はありませんが、まずは経営者や幹部で、
「今の事業は5年後も通用するのか」
「どんな変化が起きると現在の戦略が通用しなくなるのか」
を考えるところから始める方法もあります。
特に、現在は利益が出ているものの、将来の事業モデルに不安を感じ始めた会社には適しています。
Q6.シナリオプランニングは自社だけで行えますか?専門家へ相談する目安は?
社内に複数の視点から将来を議論できる経営人材がいれば、自社だけで始めることも可能です。
一方、次のような場合は外部の専門家を入れる意味があります。
・社長一人で経営戦略を考えている
・幹部が日常業務中心で将来について議論できない
・自社業界の常識から抜け出せない
・2軸の選定でどれを選べばよいか分からない
・シナリオは作れたが戦略へ落とせない
・戦略を財務目標まで落とせない
・経営計画を作っても社員の行動につながらない
外部の専門家を利用する目的は、未来を教えてもらうことではありません。
自社だけでは気づきにくい前提や選択肢を増やし、シナリオを実際の経営判断へつなげることにあります。

参照:
英国 Government Office for Science「Futures Toolkit」
2026年版中小企業白書