銀行融資の正しい受け方|中小企業経営者が知るべき借入の鉄則
会社の資金繰りが厳しくなり、月末の支払いを考えると夜も眠れない…。
中小企業の経営者であれば、誰しも一度はこのような恐怖とプレッシャーを感じることがあるかもしれません。
その孤独感は計り知れないものです。
このような恐怖に支配されると、経営者は資金繰りに奔走し、本来の仕事に集中できません。
この記事では、中小企業の融資獲得支援を行ってきた税理士として、経営が良いときにこそ経営者が行うべき賢い銀行との付き合い方と、具体的なロードマップを提示します。
なお、この記事では分かりやすさを重視して、金融機関全般を「銀行」として表記しています。
金融機関の種類については、記事中で簡単に説明していますのでご参照ください。
また、コラムの内容をより分かりやすく、短くまとめたメルマガもお届けしています。
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この記事を通じて、あなたに覚えておいてほしい、たった一つの重要な原則があります。それは、
会社の倒産の直接的な原因は、赤字ではなく「資金不足」である
ということです。
この原則を理解したうえで、経営に集中できる環境を整えましょう。
1. 銀行に「お金を貸してください」と言ってはいけない理由
意外かもしれませんが、銀行との交渉が上手な社長は、決して「お金を貸してください」という言葉を使いません。
なぜなら、この言葉を発した瞬間に「自分が弱い立場」であることを認め、銀行に主導権を握らせてしまうからです。
銀行員もノルマを持つサラリーマンです。
彼らは「お金に困って倒産しそうな人」には貸したくありませんが、「お金が十分にあり、将来性がある人」には、喉から手が出るほど借りてほしいと考えています。
賢い経営者は、決算説明の場でこう伝えます。 「何か良いご提案(融資の提案)があれば、検討しますよ」
これを財務の格言で「晴れの日に傘を借りる」と言います。
業績が悪くなってから傘(融資)を借りようとしても、銀行は貸してくれません。
業績が良い時にこそ、あえて多めに借入を行っておき、手元の現金を厚くしておくのが一流の経営戦略です。
生命保険を掛けるなら借入も行おう
会社に余裕が生まれてくると、生命保険に入る経営者が多いですが、そのタイミングこそ借入をするタイミングです。
会社に余裕がある状態であれば、融資の審査が通る可能性も高く、経営リスクに対する資金手当てが可能です。
経営者で生命保険掛金を惜しむ経営者は少ないですが、「利息はもったいない」と言う経営者が多いのは驚きです。
借入金利息同様、保険も経費です。
しかし、保険は手元資金が減少するのに対し、借入は手許現金が増加する取引です。
経営者自身の人生設計も大切ですが、会社が倒産してしまったら、その人生設計そのものが崩れてしまいます。
2. 会社が倒産する本当の理由は、あくまで「資金不足」です。
たとえ決算書が連続で赤字であろうと、負債が資産を上回る「債務超過」であろうと、手元に現金があり、支払いや返済を続けられる限り、会社は倒産しません。
逆に、黒字であっても、売掛金の回収が滞るなどして現金が底をつけば、会社は簡単に倒産(黒字倒産)してしまいます。
「無借金経営こそが正義」と信じている経営者の方も多いでしょう。
しかし、ビジネスの安全性を決めるのは、借金の多さではなく、「手元にどれだけ現金があるか(現預金残高)」です。
たとえ1億円の借金があっても、手元に1億円の預金があれば、実質的なリスクはゼロです。
むしろ現金が豊富にあれば、チャンスの時の投資や、予期せぬトラブル(災害や不況)への対応力が格段に高まります。
目標にすべきは、固定費の3ヶ月分、理想は6ヶ月分の現預金です。
一般的な資金繰りの説明では、月商の3ケ月分と言われますが、経営基盤の弱い中小企業には月商3ヶ月では不十分です。
固定費の3ヶ月分が手元にあれば、大規模地震やコロナのような経営環境の激変があっても、「3ヶ月は大丈夫」と慌てることはありません。
これだけの現金があれば、資金繰りの不安から解放され、本業である経営に100%集中できるようになります。
銀行から「ぜひ借りてください」と頭を下げられるのは、決まってこの現預金がたっぷりある会社なのです。
3. メインバンクは日本公庫・信用金庫・銀行、どれを選ぶ?
銀行ならどこでも同じというわけではありません。自社の規模に合った最適なパートナーを選ぶことが重要です。
3-1.日本政策金融公庫(日本公庫):企業経営の「保険」
政府100%出資の日本公庫は、民間銀行が融資しにくい場面をサポートする役割を持っています。
特に創業時は、公庫が一番の選択肢になります。
一度取引を始めたら、借入残高をゼロにせず、常に返済実績を積み上げ続けてください。
それが、不況時や不測の事態に備える「最強の保険」となります。
3-2.信用金庫(信金):年商3億円以下の強い味方
年商3億円以下の企業なら、メインバンクには「信用金庫」を強くお勧めします。
信用金庫は「地域密着」が法律で義務付けられており、地域経済を支える使命を持っています。
そのため、業績が少し悪化した時でも、メガバンクのように冷たく突き放さず、親身になって相談に乗ってくれる傾向があります。
3-3. 銀行:成長資金を借りるなら要検討
年商3億円以上の企業が、成長資金の融資を獲得するなら、地方銀行との取引も検討しましょう。
例えば私の地元、 愛知県の地方銀行は信金に比べて成長資金の融資に積極的な傾向があります。
メガバンクと違って、地域密着の店舗網があり、中小企業専門の銀行です。
4. 資金繰りを劇的に楽にする「借入」の種類
銀行から借りるお金には、その目的に応じて「返し方」のルールがあります。
ここを間違えると、利益は出ているのに現金が足りなくなる「黒字倒産」の入り口に立たされることになります。
4-1.運転資金(仕入れや諸経費)
これは、入ってきた「売上代金」で返済すべきお金です。
本来、事業を続ける限り必要なお金ですが、「当座借越(とうざかりこし)」という、枠の範囲内で自由に借りたり返したりできる仕組みを活用すれば、毎月の資金繰りを劇的に楽にすることが可能です。
中小企業の経営者がまず目指すゴールは、当座借越を結ぶことです。
4-2.設備資金(機械や車両の購入)
これは、その設備投資によって稼いだ「利益」と「減価償却費」から返していくお金です。
こちらはできるだけ長期(10年以上など)で借りて、1回あたりの返済額を小さく、資金繰りに余裕を持たせることが鉄則です。

運転資金は売上代金で、設備資金は利益と減価償却費で返済するのが原則です。」
5. 当座借越契約を結ぶまでのロードマップ
融資を受けたことがない経営者が銀行と取引を開始し、スムーズに資金調達を行うためのロードマップを解説します。
5-1. 最初の融資でおすすめは、日本政策金融公庫(日本公庫)
最初の取引先として最も推奨されるのが、政府系金融機関である日本公庫です。
実は、事業開始後よりも、事業計画を語れる事業開始前の方が融資を受けやすいのが特徴です。
2024年4月からは、決算2期前の企業に対して、無担保・無保証融資の枠が拡大しています。
新規開業・スタートアップ支援資金
これから開業する方は、ぜひ制度の活用を検討しましょう。
5-2. 信用金庫での借入を目指して信用金庫へ訪問開始。
日本公庫は通帳を持たないので、並行して地域の信用金庫(信金)とお付き合いを始めましょう。
日本公庫から借りた資金を、今後取引をしたい信金の口座に入れ、そこから返済します。
返済を半年ほど行ったら、信金の支店を訪問し、「今後はあなたと取引をしたい」旨を伝えましょう。
日本公庫の返済をしていることで、信金側の評価もあがり、追加の提案融資を引き出しやすくなります。
良い条件で融資を引き出すためにも、定期訪問して経営状況を報告しましょう。
5-3. 信用金庫で無担保・無保証の借入を目指す。
定期的に信金に訪問していると、金融機関から「融資の提案をさせてもらえませんか」という申し出があります。
そのときに確認するのが、「プロパー融資は検討してもらえますか」の一言です。
プロパー融資とは、信用保証協会の保証を伴わない借入で、保証料がかからないなど、低金利での借入が可能です。
また、融資実行のスピードが速かったり、借換の自由度が圧倒的に高いなどのメリットもあります。
プロパー融資に進む場合でも、銀行は貸し倒れリスクに備え、不動産などの担保の提供を求めてくることが一般的です。
しかし、経営者保証ガイドラインに基づく条件を満たしていれば、保証なしの交渉も可能です。
中小企業庁の経営者保証に関するガイドライン
担保を求められた場合でも、「経営者保証ガイドラインの無担保の対象にはなりませんか?」と必ず確認しましょう。
初回の借入時に無担保・無保証借入ができなかった場合にも、プロパー融資借換特別保証制度などの制度があるので、適時借入条件の見直しを検討しましょう。
5-4. 当座借越を結ぶ
当座借越とは、あらかじめ設定した借入限度額の範囲内で、必要なときに自由に借入と返済ができる銀行の融資サービスです。
口座の残高が不足しても、自動的に不足分を立て替えてくれるため、手形の不渡りや急な資金不足を回避できるのが大きな特徴です。
つまり、当座借越契約分だけ、企業の資金繰り・危機対応能力があがるのです。
利息は借入れた分だけになりますので、借りなければ利息は発生しません。
ただし、1年ごとの契約更新時に、銀行所定の事務取扱手数料が必要なケースがあります。
できれば、ここまで意識して、日本公庫の融資獲得前に、どこの銀行と付き合うかを決めましょう。
資金をどう獲得していくかを考えるのが、経営計画の策定です。
6. 信頼を一気に失う「NGな付き合い方」
これくらいは良いだろうと軽く考えていることが、実は銀行からの評価を下げている場合があります。
設備融資の目的外使用
最もやってはいけないのが、設備融資の目的外使用です。
まれに、設備が不要になった場合に、そのお金で違うものを購入する経営者がいますが、資金の使途違反は融資の世界では信用を一気に失墜させる行為です。
今後の融資が一切受けられなくなるリスクがあるので、絶対にやめましょう。
一行取引への依存
「卵は一つのカゴに盛るな」という格言通り、取引銀行は2〜3行に分散させましょう。
銀行は一行融資を望みますが、その反面、他行と貸付のリスクを分担しているというメリットもあります。
また、一行だけに依存すると、支店長や担当の交代一つで融資スタンスが変わり、他に行き場がない状況に追い込まれるリスクがあります。
「貸付金」の計上
社長や知人への「役員貸付金」は、銀行員が最も嫌う勘定科目です。
銀行は「会社に必要な資金」を貸しているのであって、社長個人のために貸しているわけではないからです。
これが1円でもあるだけで、「銀行融資」の難易度は跳ね上がります。
7. 危機の前兆:銀行の態度はどう変わるか?
会社への信頼や評価が悪化し始めると、態度を変えるのが銀行です。これは、来るべき危機を知らせる重要なサインです。
7-1. 銀行員が見せる「手のひら返し」の正体
あれほど頻繁に顔を見せていた銀行の担当者が、急に「忙しいのでまた今度…」と訪問頻度を落としてくる。
これは、多くの経営者が経験する「手のひら返し」の始まりです。
しかし、これは担当者個人の感情的なものではありません。
銀行は組織として、リスクを評価し、慎重に行動しているに過ぎません。
特に、担保となる資産を持たない会社に対しては、その態度は顕著に冷たくなります。
これは感情論ではなく、担保価値や債権回収の見込みを冷静に再評価した結果であり、銀行の合理的なリスク管理行動なのです。
会社が苦しい時に銀行は、本当に冷たい。
銀行が、雨の日に傘を貸さない。といわれるゆえんです。
7-2. 「雨の日に傘を貸さない」となるその前に
銀行からの信用を下げずに上げる取り組みとして、できれば毎月支店長を訪問することをおすすめします。
「支店長は忙しいから迷惑なのでは?」と思うかもしれませんが、毎月経営状況を報告する方が、銀行は業績悪化などのネガティブな情報を吸い上げたり、会社のビジョンや経営者の資質が分かります。
つまり、月次報告をすることで、経営者の管理能力や誠実さをアピールできます。
高い評価を獲得している企業に対しては、経営状況の悪化時にも、銀行は素早い対応をしてくれます。
「現金こそが経営の命綱だ」ということを肝に銘じて、忙しくても毎月訪問しましょう。
ただし、銀行の忙しい月末・月初に訪問するのは控えましょう。
8. 銀行員から一目置かれる「数字に強い経営者」とは?
銀行員と対等な立場で話すために、複雑な会計理論をマスターする必要はありません。
次の3つの数字を即答できるだけで、銀行員からの信頼は格段に高まります。
- 現預金残高: 「今、会社にいくら現金があるか。会社の生存期間は何ヶ月か。」
- 粗利益: 「会社の稼ぐ力はどれだけか。追加投資余力はどれだけか。」
- 債務償還年数: 「今の利益のペースで、あと何年で借金を返し切れるか。」
これらの数字を把握している経営者は、「自社をしっかりコントロールできている」と評価され、より有利な条件での借入交渉が可能になります。
9. まとめ:銀行を「経営のパートナー」として活用する
銀行はあなたの夢を支えてくれるパートナーですが、同時に利益を追求するビジネス組織でもあります。
彼らの「貸したい」という心理と、融資の「仕組み」を正しく理解し、使いこなすことが、安定した経営の第一歩です。
「借金=怖いもの」という古いイメージを捨て、「現金を最大化するための賢い手段」として借入を捉え直してみましょう。
借入に強い経営者になり、銀行を「経営のパートナー」としてうまく活用することが、会社と社員、そしてあなた自身の未来を守ることにつながります。
山内経営会計事務所では、銀行対応や資金繰改善についても支援を行っています。
初回無料相談は以下よりお申込みください。
よくある質問
無借金経営は本当に良くないのですか?
無借金であること自体が悪いわけではありません。重要なのは借金の有無ではなく、手元にどれだけ現金(現預金残高)があるかです。たとえ借入があっても、それを上回る現預金があれば実質的なリスクはゼロです。むしろ現金が豊富にあることで、投資機会や予期せぬトラブルへの対応力が高まります。目安として、固定費の3〜6ヶ月分の現預金を確保しておくことが推奨されます。
プロパー融資とはどのような融資ですか?
プロパー融資とは、信用保証協会の保証を伴わない、銀行が独自の判断で行う融資のことです。保証料がかからないため実質的に低金利で借りられるほか、融資実行のスピードが速く、借り換えの自由度も高いというメリットがあります。信用金庫や銀行と継続的に取引実績を積み、信頼関係を築くことで提案を受けやすくなります。
信用金庫と銀行、中小企業はどちらと取引すべきですか?
企業の年商規模によって最適な取引先は異なります。年商3億円以下の企業であれば、地域密着で業績悪化時にも親身に相談に乗ってくれる信用金庫がメインバンクとしておすすめです。一方、年商3億円を超え、成長資金の調達を目指す段階では、地方銀行などの銀行との取引も視野に入れるとよいでしょう。あわせて、政府系金融機関である日本政策金融公庫との取引を並行して継続することも、不測の事態への備えとして有効です。
当座借越とはどのような仕組みですか?
当座借越とは、あらかじめ設定した借入限度額(極度額)の範囲内で、必要なときに自由に借入と返済ができる銀行の融資サービスです。口座残高が不足しても自動的に立て替えられるため、急な資金不足を回避できます。利息は実際に借り入れた分にのみ発生するため、借りなければコストはかかりません。ただし、契約更新時に所定の手数料がかかる場合があります。
銀行融資を受ける際、経営者保証は必ず必要ですか?
必ずしも必要とは限りません。銀行は貸し倒れリスクに備えて担保や経営者保証を求めるのが一般的ですが、経営者保証ガイドラインに基づく一定の条件(法人と個人の資産の分離、財務基盤の健全性など)を満たしていれば、保証なしでの交渉が可能です。担保や保証を求められた際は、ガイドラインの対象にならないか確認することが重要です。初回の借入時に無担保・無保証が難しかった場合も、保証付き融資からの借り換え制度を活用できるケースがあります。
経営目標の設定方法|目標を達成させる7つのステップ
経営目標の設定方法|目標を達成させる7つのステップ

「今期の売上目標は10億円」
「営業利益率を5%にする」
「新規顧客を増やす」
このような経営目標を掲げたものの、社員の行動が変わらず、期末になって未達が判明する会社は少なくありません。
経営目標が達成されない大きな原因は、目標の数字が低いからでも、社員の努力が足りないからでもありません。
多くの場合、経営目標と日々の行動の間にある「達成までの道筋」が設計されていないことが原因です。
達成につながる経営目標を設定するには、次の順番で考える必要があります。
1.会社が実現したい将来像を明確にする
2.現状との差を把握する
3.経営目標を数値で設定する
4.顧客に提供する価値を決める
5.重要成功要因を絞り込む
6.KPIとOKRへ落とし込む
7.定期的に進捗を確認し、目標を修正する
この記事では、中小企業が経営目標を設定し、社員の行動へ落とし込む方法を具体的に解説します。
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経営目標とは、会社が実現したい状態を具体化したもの
経営目標とは、会社が将来実現したい状態を、期限や数値を含めて具体的に表したものです。
たとえば、次のような目標があります。
・3年後に売上高10億円を達成する
・営業利益率を3%から7%へ改善する
・新規事業の売上構成比を20%にする
・特定顧客への売上依存度を30%以下にする
・社員一人当たりの粗利益を20%向上させる
ただし、売上や利益の数字を掲げるだけでは、達成につながる経営目標にはなりません。
「どの顧客に、どのような価値を提供し、どの業務を変えることで、その数字を実現するのか」まで考える必要があります。
経営理念・経営方針・経営目標の違い
経営理念、経営方針、経営目標は、それぞれ役割が異なります。
その違いはそれぞれ次のように説明されます。

理念だけでは、社員は何をすればよいか判断できません。
反対に、数字だけでは、その目標を達成する意味や優先順位が伝わりません。
理念、ビジョン、経営目標、行動目標を一つの流れとしてつなげることが重要です。
経営目標を設定しても達成できない5つの原因
経営目標を設定しても達成できない会社には、共通する原因があります。
前年実績に数字を上乗せしただけになっている、売上と利益という結果指標しか見ていない、目標が多すぎる、部門目標や社員の行動につながっていない、設定後の振り返りが行われていない——この5つです。
それぞれの原因を放置すると、どれだけ良い数字を掲げても現場は動きません。
原因の詳しい内容と、社員を責める前に見直すべき仕組みについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
なぜ目標を達成できないのか?目標未達成が続く7つの原因と改善の仕組み
ここから先は、目標を「立てる段階」で達成につながる形にするための具体的な手順を解説します。
達成につながる経営目標を設定する7つのステップ
ここからは、経営目標を設定する具体的な手順を説明します。

ステップ1.経営理念と将来ビジョンを確認する
最初に確認するのは数字ではありません。
「自社は、誰に、どのような価値を提供する会社なのか」
「3年後や5年後に、どのような会社になりたいのか」
を明確にします。
たとえば、単に「売上10億円を目指す」と考えるのではなく、次のように将来像を描きます。
地域の製造業から、技術課題を最初に相談される会社になる。
価格競争から脱却し、高付加価値案件を中心とする事業構造へ転換する。
この将来像があることで、売上目標の意味と、選ぶべき戦略が明確になります。
ステップ2.外部環境と自社の現状を分析する
次に、目指す姿と現在地の差を確認します。
外部環境では、次のような項目を調べます。
・市場の将来性はどうか?
・顧客ニーズはどう変化しているか
・競合は何を強みにしているか
・技術や制度はどう変わるか
・原材料費や人件費はどう変化するか
自社については、まず財務分析で自社の財務の現状を分析します。
そのうえで、なぜその結果になっているか、次の項目を確認します。
・顧客別・商品別の売上と粗利益
・顧客から選ばれている理由
・競合と比較した強みと弱み
・人材と組織能力
・生産能力と業務プロセス
ただ強みや弱みを並べるだけで終わらせず、「どの課題を解決すれば、将来像に近づけるか」まで考えることが重要です。
ステップ3.3~5年後の財務目標を数値化する
将来像と現状との差が分かったら、3~5年後の財務目標を設定します。
代表的な財務目標として、売上高増加・市場占有率などの成長性に関する目標、粗利益率や営業利益率などの収益性に関する目標、自己資本比率や債務償還年数など財務安定性に関する目標、在庫回転期間や売掛金回収期間などの資産効率に関する目標があります。
売上が伸びても、在庫や売掛金が増え続ければ、資金繰りが苦しくなることがあるためです。
将来像を実現するための自社の課題を分析して目標を設定しましょう。
ステップ4.顧客に提供する独自の価値を決める
経営目標を達成するには、顧客から選ばれる理由が必要です。
ここでは、次の3点を明確にします。
1.誰を主要顧客とするのか
2.顧客のどのような課題を解決するのか
3.競合とは異なる価値をどう提供するのか
経営学の教科書などでよく取り上げられる事例に、サウスウエスト航空があります。
サウスウエスト航空は、短・中距離を移動する顧客に対し、低運賃、定刻運航、多便数という価値を提供し、LCC(格安航空会社)の先駆けとして40年以上の連続黒字という驚異的な実績をあげました。
その実現を支えたのが、使用機材の統一、短い折り返し時間、機内サービスの簡素化など、相互につながった複数の活動です。
機材の統一という一つの施策が、整備費や訓練費の削減だけでなく、折り返し時間の短縮や機材稼働率の向上にも貢献しています。
良い戦略は、一つの施策だけに依存していません。
複数の施策が組み合わさり、顧客価値、低コスト化、資産の有効活用へ同時に貢献します。
自社でも、単に「品質を高める」「営業を強化する」と考えるのではなく、複数の活動がどのようにつながるかを考える必要があります。
ステップ5.戦略マップで達成までの因果関係を描く
経営目標と具体的な活動をつなぐために有効なのが、BSCの戦略マップです。
戦略マップでは、目標を次の4つの視点に分けます。

たとえば、製造業が営業利益率を改善する場合は、次のような因果関係を描けます。
提案力を持つ技術者を育成する
↓
顧客課題を把握する提案プロセスを確立する
↓
高付加価値案件の受注比率が高まる
↓
平均単価と粗利益率が上がる
このつながりが、戦略の仮説です。
戦略マップを作る目的は、きれいな図を作ることではありません。
「本当にこの取り組みを進めれば、経営目標へ近づくのか」を確認することです。
ステップ6.CSF、KPI、OKRへ落とし込む
戦略マップができたら、重要成功要因と測定指標を設定します。
CSFとは
CSFは、経営目標を達成するために、特に成功させなければならない重要な要因です。
先ほどの製造業の例では、次のようなものが考えられます。
・高付加価値商品の開発
・見積もり精度の向上
・不採算案件の削減
・生産リードタイムの短縮
すべての業務をCSFにしてはいけません。
戦略の成否を左右する、少数の重要項目に絞ります。
経営資源が限られる中小企業は、CSFを描きにくいことがあります。
そんなとき、私は財務分析から重要成功要因を逆算するというステップを挟みます。
ステップ2の財務分析と、ステップ3の財務目標のギャップのうち、最も改善余地が大きい項目を1~2選び、それを解消するCSFを経営者と一緒にAIも活用しながら考えます。
KPIとは
KPIは、CSFが計画どおり進んでいるかを確認するための指標です。

KPIは、測れる数字を選ぶだけでは不十分です。
社員の行動によって変えられ、変化した結果として経営目標へ近づく指標を選びます。
OKRとは
OKRは、組織が実現したい状態を表すObjectiveと、その達成度を測るKey Resultsを組み合わせる目標設定方法です。
たとえば、次のように設定します。
Objective
価格競争から脱却し、顧客から技術提案を求められる会社になる
Key Results
・受注生産品の売上構成比を30%から45%へ高める
・技術提案型の商談件数を月5件から月10件へ増やす
・半年以内に新商品の試作品を重点顧客5社へ提案する

経営目標が最終的な成果を示すのに対し、OKRは、一定期間に組織が集中する変化を明確にするために使います。
会社の経営目標と、部門・チームのOKRをつなげることで、社員が「自分たちは何に集中するのか」を理解しやすくなります。
OKRについて詳しくは以下の記事でも説明しています。
ステップ7.週次・月次・四半期で進捗を確認し、目標を修正する
経営目標は、設定して終わりではありません。
週次・月次ではKPIと行動の進捗を確認し、四半期では戦略の仮説や目標の設定そのものを振り返ります。
週次で確認すること
毎週、先週行ったことの振り返りと今週優先することを宣言し、チームで共有します。
リーダーは、メンバーの目標を評価し、必要がある場合はフィードバックや支援を行います。
月次で確認すること
目標を達成するために、簡単に解決できないことなどについて対話をし、より質の高い行動を引き出すための会議をチームで行います。
チームの中だけで解決できない内容は、上層部の会議に引き継ぎます。
四半期で確認すること
四半期改善ミーティングを行い、四半期で立てた目標と、結果とのギャップを明らかにし、必要がある場合は目標を修正します。
また、チームの運用面についても話し合い、改善できる点を改善します。
これらのミーティングで、未達だった社員や部門を責める場にすると、正確な報告が上がらなくなります。
レビューの目的は、責任追及ではありません。
目標と行動の因果関係を検証し、次の打ち手を改善することです。
経営目標の設定に使えるSMARTの法則
経営目標を文章にするときは、SMARTの考え方で確認できます。

たとえば、「利益を増やす」という目標は曖昧です。
SMARTを使うと、次のように具体化できます。
2029年3月期までに、高付加価値商品の売上構成比を高め、営業利益率を現在の3%から7%へ改善する。
ただし、SMARTは目標の表現を整えるための確認方法です。
SMARTを満たしていても、戦略との因果関係がなければ、達成方法は分かりません。
「具体的な目標を作ること」と「達成できる戦略を作ること」は分けて考える必要があります。
なお、経営を大きく変える必要がある場合は、SMARTのAは達成可能か(Attainable)ではなく、60~70%達成で十分な、野心的な目標(Ambitious)なものにするのが適切だと考えています。
変化が速く・不確実性が高い現代の経営環境において、現状の延長線上にある、達成可能性の高い目標ばかりでは、生き残っていくことはできません。
新規事業や新事業の開拓など、大きなチャレンジをすることが重要です。
経営目標を設定するときの5つの注意点
数字だけの目標になっている
経営目標は数字で表しますが、目標数字と現状とのギャップを埋める戦略が合っていないと目標は達成できません。
支援現場で目標設定の支援をしていると、例えば売上依存度が高い製造業では経営者が「新規顧客比率20%」のような目標を掲げるケースが多いでが、その目標を達成するには、CSFに「現場での提案型営業の確立」が設定されます。
こういった目標設定が散見されます。
目標数値を達成できる戦略は整合性があるのか?
具体的に何に取組むのか?
誰が、いつまでに、達成する責任があるか?
ここまで設定しないと、目標は達成されません。
KPIを増やしすぎない
経営目標達成のためにとKPIを増やしすぎると、優先順位が分からなくなり、労多くして成果があがりません。
KPIにすべき項目が多い場合は、経営目標の達成を左右するものに絞ったうえで、まず最初の3カ月どのKPIを達成すべきかの優先順位を決めましょう。
部門ごとに別々の目標を作らない
営業、製造、開発、管理などの各部門が、それぞれ独立した目標を作ると部分最適が起こります。
営業が短納期案件を大量に受注した結果、製造の残業と不良が増えることもあります。
会社全体の経営目標と戦略マップを共有したうえで、部門目標を設定し,共有します。
会社目標は、部門目標の全部が達成したときに、達成されます。
そのような部門目標になっていない場合は、部門目標を修正しましょう。
必達目標と挑戦目標を混同しない
資金繰りや最低利益など、必ず達成しなければならない目標があります。
一方で、新商品開発や事業変革など、不確実性の高い挑戦目標もあります。
両者を同じ基準で評価すると、社員は失敗を避けて低い目標を設定するようになります。
必達目標と挑戦目標は、目的と運用方法を分ける必要があります。
人事評価と目標管理を安易に一体化しない
目標の達成率をそのまま人事評価にすると、社員は達成しやすい目標を選ぶ可能性があります。
また、部門間の協力よりも、自分の数字を優先することがあります。
そうしてしまうと、結果的に「部門ごとに別々の目標」が作られてしまいます。
経営目標を実現するための目標管理と、社員の処遇を決める人事評価は、役割を整理して設計することが重要です。
経営目標設定チェックリスト
経営目標を決定する前に、次の項目を確認してください。
・経営理念やビジョンとつながっているか
・ターゲットや顧客と、顧客へ提供する価値が明確か
・現状値と目標値の差を把握しているか
・目標値の根拠を説明できるか
・達成期限が決まっているか
・達成に必要なCSFが絞られているか
・KPIが社員の行動とつながっているか
・部門間の目標に矛盾がないか
・定期的に戦略を見直す場があるか
チェックが多く付かない場合は、経営目標を発表する前に、達成までの道筋を見直す必要があります。
まとめ|経営目標は「数字」ではなく「達成の仕組み」まで設定する
経営目標の設定で重要なのは、売上や利益の数字を決めることだけではありません。
達成につながる経営目標は、次の流れで設定します。
1.経営理念と将来ビジョンを明確にする
2.外部環境と自社の現状を分析する
3.3~5年後の経営目標を数値化する
4.ターゲット顧客と提供価値を決める
5.戦略マップで因果関係を描く
6.CSF、KPI、OKRへ落とし込む
7.月次・四半期で検証と修正を続ける
経営目標は、経営者だけが知るべき数字ではありません。
社員が「何を優先し、何を変えれば会社の目標に貢献できるのか」を判断するための共通言語です。
経営目標を達成したいのであれば、目標値だけでなく、戦略、指標、行動、レビューまでを一つの仕組みとして設計することが重要です。
よくある質問
経営目標は何年先まで設定すればよいですか?
中長期の方向性は3~5年、具体的な実行目標は1年、重点的な取り組みは四半期単位で設定するのが一つの方法です。
将来の不確実性が高いため、長期になるほど細かな行動まで固定せず、方向性と到達したい状態を中心に設定します。
KPIはいくつ設定すればよいですか?
一律の正解はありませんが、経営会議で継続的に確認できる数に絞ることが重要です。
測れる数字をすべて管理するのではなく、経営目標の達成を左右する指標を選びます。
経営目標を社員へ浸透させるにはどうすればよいですか?
経営目標の数字だけでなく、設定した背景、顧客へ提供する価値、達成までの因果関係を説明します。
そのうえで、会社目標を部門やチームの目標へ展開し、定期的に進捗を共有する仕組みが必要です。
経営目標が未達になった場合は変更してもよいですか?
前提条件が変化した場合や、戦略の仮説が誤っていた場合は見直すべきです。
ただし、達成が難しいという理由だけで安易に下げるのではなく、未達の原因が行動不足なのか、指標の誤りなのか、戦略の誤りなのかを確認してから判断します。
経営目標の設定を専門家へ相談する判断基準はありますか?
経営目標の数値は決められても、戦略、部門目標、KPI、行動計画へ落とし込めない場合は、外部支援を検討する余地があります。
経営者と幹部で目標への認識が異なる場合や、毎年同じ目標を掲げながら未達が続いている場合も、設定過程を見直す必要があります。
経営目標を「社員が動ける目標」へ変えませんか?
経営目標の設定で本当に難しいのは、
目標の数字を決めることではありません。
会社のビジョンから戦略を組み立て、
部門と社員が動ける目標へ落とし込むことです。
経営計画がまだない場合は計画作成から、
すでに計画がある場合はOKRへの展開から、
会社の状況に合わせて整理します。
経営目標の設定についての相談については下記よりお問い合わせください。
記事作成者
山内聖堂
2011年の税理士登録後、事業計画策定支援コンサルティングを開始するも、事業計画を達成できない企業があるジレンマに悩み、組織開発コンサルティングへと軸足を移す。
近年では、組織の共通の目標に向かって、従業員がそれぞれの強みを活かして働く「しくみ」であるOKRの導入コンサルティングに力を注いでいる。
現在1on1マネジメントスクール内で、経営者・経営コンサルタント向けにOKR講師養成塾の講師を行っている。
https://1on1cs.jp/course/#okr
タグ: 中小企業 目標管理
経営計画を達成できない5つの原因|OODAループで計画を行動に変える
「経営計画を作ったのに、計画どおりに進まない」
「社員に説明したはずなのに、行動が変わらない」
「気づけば、計画を意識しているのは自分だけ」
このような悩みを抱える中小企業経営者は、少なくありません。
経営計画を達成できない主な原因は、社員のやる気や能力の不足ではありません。
多くの場合、経営計画と日々の経営判断をつなぐ仕組みがないことが原因です。
経営計画は、完成度の高いものを作れば達成できるわけではありません。
市場や顧客の変化を観察し、その意味を考え、次の一手を決める必要があります。
そこで役立つのが、OODAループです。
OODAループとは、状況を観察し、意味を考え、意思決定し、行動する流れを繰り返す方法です。
変化が速く、正解が分かりにくい現代では、最初に決めた計画を守り続けるより、状況に合わせて判断を変える力が重要です。
この記事では、経営計画を達成できない5つの原因と、OODAループを使って計画を実行に変える方法を、分かりやすく解説します。
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経営計画を作っただけでは達成できない
経営計画とは、会社が将来どのような姿を目指し、そのために何をするかを決めたものです。
例えば、次のような内容を決めます。
・3年後の売上と利益
・重点的に伸ばす商品や事業
・新たに獲得したい顧客採用や社員育成の方針
・今年取り組む重要課題
経営計画を作ることは重要です。
しかし、計画を作ることと、計画を達成することは別の仕事です。
旅行に例えると、経営計画は目的地と大まかな道順を決めた状態です。
出発時に決めた道順が、最後まで最適とは限りません。
道路が渋滞していたり、通行止めになったりすれば、現在地を確認して別の道を選ぶ必要があります。
経営も同じです。
顧客の要望、競合の動き、原材料価格、採用状況、技術などは変化します。
経営計画を達成するには、当初の計画を確認するだけでなく、変化を捉えて経営判断を修正する仕組みが必要です。
経営計画を達成できない5つの原因
1.目標が売上や利益だけになっている
「売上1億円を達成する」
「利益を1,000万円にする」
経営上、このような数値目標は必要です。
しかし、数字だけでは、社員は何をすればよいか分かりません。
売上を増やすには、商談を増やす、既存顧客への提案回数を増やす、平均単価を上げるなどの行動が必要です。
さらに、実際の顧客が何を求めているのかを観察しなければ、効果的な行動は選べません。
結果の数字だけでなく、顧客や現場の変化、社員の成長を確かめる目標も定めましょう。
2.重要課題が多すぎる
経営計画を作ると、営業強化、採用、社員教育、商品開発、業務改善など、会社には多くの課題があることが分かります。
しかし、人と時間が限られている中小企業が、すべてを同時に進めることは困難です。
取り組む課題が多すぎると、社員は何を優先すればよいか分からなくなります。
その結果、目の前の日常業務が優先され、経営計画は後回しになります。
まずは、今後3か月で特に重要な課題を1~3個に絞りましょう。
そのうえで、状況が変わった場合に優先順位を見直せるようにします。
3.会社の目標が社員の目標につながっていない
会社の目標を伝えただけでは、社員は日々の仕事で何を判断すればよいか分かりません。
例えば、会社の目標が「新規顧客を30社増やす」だったとします。
営業担当者は商談を増やす必要があります。
しかし、事務担当者や製造担当者は、自分の仕事と目標の関係が見えにくいでしょう。
会社の目標を、部門の目標や担当者の行動へ落とし込むことが必要です。
日本ではあまり意識されていませんが、部門の目標へと落とし込む前に、その目標に対して部門が果たすべき責任を決めることが重要です。
目標に対する責任が明確でないと、会社の目標と部門の目標につながりができなかったり、部門目標に対する行動がずれることがあります。
部門目標を決める前に、会社目標に対する部門の責任について話しあいましょう。
4.現場の変化を確認する機会がない
数年に一度経営計画を作り、1年に1回結果を確認するだけでは、途中で起きた変化に対応できません。
売上の数字だけでなく、顧客の反応や社員が感じた問題も確認する必要があります。
例えば、次の4点を毎週または毎月確認します。
・今回の打ち手で顧客にどんな変化があったか
・その変化は自社にどのような影響を与えるか
・今の課題は何で、解決策はなにか
・誰がいつまでに行動するか
現場で得た情報が経営層まで届かなければ、経営判断は過去の情報に基づくものになります。
経営層が広い視点で判断するためには、現場の小さな変化を吸い上げる仕組みも必要です。
5.一度決めた計画を変えてはいけないと思っている
経営計画を変更すると、「最初の計画が間違っていた」と感じる経営者もいます。
計画を作った時点では、未来の状況をすべて知ることはできません。
実行して初めて、顧客の反応、自社の本当の強み、予想外の問題が見えてきます。
計画の変更は、必ずしも失敗ではありません。
新しく得た情報を基に、より良い方法へ変えるヒントです。
会社が目指す方向まで変える必要はありません。
経営理念やビジョンといった目的は維持しながら、目的へ向かう方法や資源配分を柔軟に変えましょう。
OODAループとは、変化を見ながら判断する方法
OODAループは、「ウーダループ」と読みます。
次の4つの英単語の頭文字からつくられています。
・Observe:観察する
・Orient:どう行動するか判断する
・Decide:意思決定する
・Act:行動する
4つの段階を一度行って終わるのではありません。
行動によって得た新しい情報を再び観察し、次の判断につなげます。
この繰り返しを表すため、この記事では「OODA」ではなく「OODAループ」と表記します。
Observe:経営環境を観察する
経営層は、会社全体に影響する情報を広く観察します。
対象となるのは、次のような情報です。
・業界の予測
・顧客ニーズの変化
・競合企業の動き
・原材料価格や人件費
・法律や制度
・新しい技術
・社員や組織の状態
経営層の観察では、目の前の一件だけでなく、その変化が会社全体へ与える影響を見ることが重要です。
Orient:状況判断をする
集めた情報から、自社を取り巻く状況がどうなっているかを判断します。
OODAループの中でも、特に重要な段階です。
例えば、競合が値下げを始めた場合でも、自社も同じように値下げすることが正解とは限りません。
自社の強み、顧客が選ぶ理由、利益への影響などが、これからの自社にどう影響を及ぼすか、判断しましょう。
判断するにあたって、これまで自社で実施した打ち手の結果がどうだったか、振り返ることも大切です。
うまくいっていることだけでなく、何か間違えたことはなかったか?を振り返りましょう。
Decide:方針と資源配分を決める
状況判断を踏まえ、会社としての次の一手を決めます。
経営層の意思決定は、現場の個別対応とは異なります。
ヒト・モノ・カネ・時間を、どこへ配分するかを決めることが中心です。
現場の最新の情報も吸い上げながら、現時点で最も妥当な方針を決めます。
Act:組織が動ける状態をつくる
決めた方針を各部門へ伝え、行動へ移します。
経営層にとってのActは、経営者自身が作業することだけではありません。
現場が動けるように、次の条件を整えることも含まれます。
・重点目標を明確にする
・部門の責任を決める
・必要な予算を配分する
・権限を渡す
・判断基準を共有する
行動後に得られた結果や現場の情報を、再び観察に戻ります。
やってみた結果を観察して修正し、次につなげていく。
これを素早く繰り返すことで、成果を生み出しやすくなります。
経営層と現場ではOODAループの使い方が違う
経営層と現場では、見る範囲とループを回す速さが異なります。
その違いを現したのが次の表です。

現場は、顧客の反応やトラブルを見て、その場で対応します。
一方、経営層は現場から上がった情報をまとめ、市場全体や会社の将来を考えて方針を決めます。
この記事では、経営計画の達成がテーマであるため、ここからは経営層のOODAループに絞って解説します。
OODAループとPDCAの違い
OODAループとPDCAは、どちらも行動と改善を繰り返す方法です。
ただし、出発点と得意な場面が異なります。
OODAループとPDCAの違いを比較すると以下のようになります。

PDCAは、Plan、Do、Check、Actの順に、計画、実行、確認、改善を行います。
製造工程や毎月繰り返す業務など、一定の手順がある仕事に向いています。
一方、OODAループは、現在の状況を観察することから始まります。
変化が大きく、最初から正しい計画を立てにくい経営課題に活用しやすい方法です。
どちらか一方が、常に優れているわけではありません。
安定した業務はPDCAで改善し、変化の激しい経営課題はOODAで対応するという使い分けもできます。
経営計画の実行では、当初の計画を守ることが目的になってはいけません。
変化を観察し、計画と現実がずれていれば、行動を変えることが重要です。
参考:PDCAサイクルとOODAループ 厚生労働省
達成のキモは、早く作ってOODAループを回すこと
ここからは、私の独自の考えです。
変化が速く、複雑な現代では、最初から正解の経営計画を作ることは困難です。
経営計画の作成に時間をかけすぎると、完成した頃には市場の状況が変わっていることもあります。
そのため、経営計画は作るだけムダだと考えるようになりました。
しかし、今はAIを活用すれば、以前の数10倍の速度で経営計画を作ることができるようになりました。
経営層は、経営計画策定を通じて、会社が目指す姿や目標、重点課題を決めたうえで、OODAループを回します。
市場や顧客を観察し、自社への影響を考え、重点方針と資源配分を決め、組織を動かします。
行動によって新しい情報が得られたら、再び観察し、必要に応じて戦略を変えます。
経営計画は、未来を正確に当てる予言書ではありません。
会社が進む方向を示し、現実から学びながら、次の一手を考えるための道具です。
経営計画を実行に変えるOODAループの4つの手順

手順1.重点目標を決め、変化を観察する
最初に、今後3か月で達成したい重点目標を1~3個に絞ります。
そのうえで、目標に影響する顧客、市場、競合、自社の情報を観察します。
手順2.経営計画への影響を考える
集めた情報を見て、計画の前提が変わっていないかを確認します。
数字の良し悪しだけでなく、なぜ変化したのかを考えます。
事実と経営者の思い込みを分けることが重要です。
手順3.方針と資源配分を決める
次に何を優先するかを決めます。
同時に、人員、予算、時間をどこへ配分するかも決めます。
新しい施策は、小さく試せる範囲から始めましょう。
手順4.組織を動かし、再び観察する
決定した方針を、部門の責任と目標へ落とし込みます。
実行後は、結果と現場の反応を確認します。
うまくいかなかった場合も責任追及だけで終わらせず、新しく何が分かったかを次の判断へつなげます。
OODAループをOKRで組織へ実装する
ここまで紹介したOODAの4つの手順は、OKRを活用すると会社の仕組みとして実装しやすくなります。
中小企業では多くの場合、経営者が現場の判断まで担っています。
OODAループは、この「経営者が全判断を抱えている」状態を変え、経営層が与えた方針を基に、社員が現場で観察・判断・行動できる組織をつくる考え方です。
それを仕組みとして実装するのがOKRの役割です。
OKRとは、達成したい目標と、達成度を判断する具体的な成果をセットで決める目標管理の方法です。
まず、経営計画から、近々3か月の重点目標を設定します。
OKRでは毎月、数字と現場の変化を観察し、外部・内部の状況を判断し、次に行う行動を決めるミーティング(コンフィデンスミーティング)を行います。
OKRを使って目標を社員の行動に落とし込むことで、社員が自分で観察・判断・行動できる組織へ変わっていきます。
つまり、OKRは、目標を掲げるだけの仕組みではありません。
経営層の判断を社員の目標と行動へつなぎ、組織全体でOODAループを回すための実行の仕組みとして活用できます。
OKRの基本的な意味や設定方法は、OKRとは何か|中小企業向けに分かりやすく解説をご覧ください。
目標管理全体の考え方を比較したい方は、中小企業の目標管理とは|手法と実施手順も参考にしてください。
経営計画そのものの作成や、会社OKRへの落とし込みに課題がある場合は、【経営計画策定支援ページへの内部リンク】で支援内容をご確認ください。
まとめ|経営計画が達成できない原因を理解し実行に移す
経営計画を達成できない原因は、社員の努力不足だけではありません。
目標が行動や判断につながっていない、重要課題が絞られていない、市場の変化を確認していない、資源配分を見直していないといったマネジメントの問題があります。
重要なのは、完璧な経営計画を作ることではありません。
早く計画を作って、早く実行に移すことです。
そして、行動から得た情報を次の経営判断へつなげます。
OODAループを繰り返すことで、経営計画は変化に対応したものへ更新されます。
経営計画は、作って保管するための書類ではありません。
経営層がより良い判断を続け、会社を目指す方向へ動かすための仕組みとして活用しましょう。
よくある質問
OODAループとPDCAは、どちらが中小企業に向いていますか?
どちらか一方ではなく、課題に応じて使い分ける方法が適しています。
市場変化への対応や新規事業など、最初から正解を決めにくい課題にはOODAループが向いています。
製造工程や定型業務など、決めた手順を改善する課題にはPDCAが向いています。
OODAループを経営計画に使うにはどうすればよいですか?
まず経営計画の重点目標を1~3個に絞り、目標に影響する市場、顧客、競合、自社の情報を定期的に確認します。
その情報が計画へ与える影響を考え、方針と資源配分を決めて実行します。
実行後は結果を観察し、次の判断へつなげます。
OODAループとOKRはどう違いますか?
OODAループは、変化を観察して意思決定するための考え方です。
OKRは、会社の経営計画を部門や社員の目標と行動へつなぎ、組織全体で計画の達成を目指す目標管理の仕組みです。
経営層がOODAループで決めた方針を、OKRによって組織全体へ展開するという組み合わせができます。
経営計画を「社員が動く目標」へ変える
small-okrでは、経営計画を会社・部門・社員のOKRへ落とし込み、目標設定後の実行と振り返りまで支援しています。
計画はあるものの実行されていない会社や、変化に対応できる経営計画を作りたい経営者の方は、経営計画策定支援の内容をご確認ください。





